小児のヘリコバクター・ピロリ感染症

小児のヘリコバクター・ピロリ菌感染症について

ピロリ菌とは?
ピロリ菌は、胃の中に生息しているらせん形の細菌です。1983年にオーストラリアの医師によって報告されました。ピロリ菌は慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、成人の胃癌の原因となります。現在、日本では高齢者ほどピロリ菌の感染率が高く、感染者数は人口の約半数の6,000万人ともいわれています。
日本の小児における感染率はどのくらいですか?
近年の調査によると、18歳以下の小児の感染率は3~5%まで低下していると考えられます。
ピロリ菌はどのように感染しますか?
上下水道の整った現在の日本における主要な感染経路は、5歳以下の乳幼児期に母から子などの家族内感染が主な感染経路と考えられています。ピロリ菌は胃、口腔、吐物、便中に存在することがわかっていますが、いつ、どのようにして感染するのかは明らかでなく、感染の予防策として確実な方法はありません。
小児でピロリ菌感染と関連する病気にはどのようなものがありますか?
ピロリ菌に感染すると、ほぼすべての方が小児期から胃に炎症(慢性胃炎)をきたします。時に胃潰瘍、十二指腸潰瘍を発病します。また、思春期の鉄欠乏性貧血と関連することがあります。幸い小児期に胃癌になることはほとんどありません。
ピロリ菌に感染すると、どのような症状がでますか?
ピロリ菌感染に胃・十二指腸潰瘍を合併すると、腹痛、吐き気、消化管出血、体重増加不良などの症状がでます。しかし、潰瘍が治るとピロリ菌感染が持続していても症状は改善します。ピロリ菌感染があっても無症状のこともあり、ピロリ菌感染の有無とお腹の症状は必ずしも一致しないと考えられます。
思春期の鉄欠乏性貧血とピロリ菌感染は関係があるのですか?
思春期は体の成長や運動をすることで、鉄分をたくさん必要とします。この時期の鉄欠乏性貧血の患者さんでは、ピロリ菌感染率が高く、ピロリ菌除菌治療によって貧血が改善することがあります。鉄欠乏性貧血と診断された思春期の子どもさんは、ピロリ菌感染の検査をおすすめします。
ピロリ菌感染の検査にはどのようなものがありますか?
便中抗原と尿素呼気試験という検査が、診断の精度が高く、安全かつ簡便にピロリ菌感染を診断できます。血液や尿中の抗体検査は、簡便なスクリーニング検査ですが、検査の偽陽性や偽陰性がおきうるため、主に疫学調査などで大勢の方をスクリーニングする検査に向いています。腹痛や貧血などの症状のある方では、内視鏡検査(胃カメラ)によって、病気の精査と同時にピロリ菌感染についても検査することができます。これらの検査の適応は、患者さんの病状によって異なりますので、ピロリ菌感染に詳しい医師に相談してください。
小児でも除菌治療ができますか?
5歳以上の小児で、胃カメラ検査で胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎の所見があり、ピロリ菌感染が確認された方には、成人の保険適応に準じて除菌治療を受けることができます。除菌治療は3種類の薬を7日間、自宅で内服していただきます。除菌治療の副作用として、下痢や蕁麻疹がおこることがあります。クラリスロマイシンという除菌薬の効きやすさによって、除菌成功率が異なります。初回の除菌治療で失敗した方には、2回目の除菌治療を行うこともあります。
除菌治療の判定はどのように行いますか?
除菌治療後4週間以降に、尿素呼気試験あるいは便中抗原で判定します。内視鏡検査は必ずしも必要ありません。
除菌後の再感染率はどのくらいですか?
日本では除菌後の再感染は年2%以下で十分低いとされています。
家族にピロリ菌感染者がいる場合には子どもの検査も必要ですか?
子どもさんに腹痛や貧血などの症状がある場合には、積極的に検査することをすすめます。症状がない場合には、検診などの機会を利用して検査を受けましょう。いずれの場合もピロリ菌感染に詳しい医師に相談することをおすすめします。

(中山佳子)

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